人間も妖怪も妖精も・・・想像し得るイキモノが存在する世界で、
人間の女子高校生は、運命のヒトを見つけた・・・。
だって、出会ってしまったんだもの!
2月9日。
沢山の生徒が「この後何をしようか」と相談しながら帰宅している高校の校門前。
他校の女子高校生が、手に何やらプレゼントらしき物を持って、待ち人はまだか、まだかとドキドキしつつ待っていた。
―早く・・・。早く来てくれ。
視線が、みんなの視線がひどい。他校生だからって、そんなにジロジロ見なくても良いじゃないか。
なんだ?女子高生がそんなに珍しいんか!?いくら男子校でも女子高生ぐらい見たことあるだろ!
・・・・あうぅ、見るなよぅ。心臓がもた・・な・・・。っ来たぁ!!!
他の生徒より、頭1.5個分は高い身長。細身だが、しっかりと筋肉がついていると分かる体型。
顔は整っている方だが、いかんせん眼光が鋭すぎて美形が半減。頭髪は焔色。
・・・そして、その炎の中に見えるのは2本の角。
そう、少女の待ち人は「鬼」である。
彼が歩いてくる。無表情で。無表情なのに、みんなに恐怖をあたえてしまうような無表情で。
鬼が恐いのか、彼自身が恐いのか・・・多分、後者だろう。彼の周囲半径3メートルは誰もいない。
彼が少女を目にし、表情を変えた。彼は「少し驚いた」程度の表情をしたのだが・・・。
周りからすると「なんだ?こいつぁ。どこのヤツだ、ぁあ゙っ?」な表情に見えたらしい。半径5メートルにいた生徒が一気に身を引いた。
周囲がそんな反応を示しているなか、彼女はというと・・・
―ふわぁ、どうしよう。目が合った。合ってる。現在進行形で彼と見詰め合っちゃってるよ!信じられない!!
・・・やっぱり、格好いいな。惚れ直してしまう凛々しさだ。
なんて声を掛けようか。頭が真っ白になってきた。・・・あぁ、やっぱり格好いい・・・。
と、ウットリ・ドップリ浸っていた。恋は盲目なのか、単に彼女の好みなのか、おかしな子なのか・・・。
そして彼は表情を元に戻し、我関せずと帰宅しようと足を進めていた。彼女の方へ。そう、彼女の方へ!
彼女と彼の距離、10メートル・・・6メートル・・・・・・・3メートル・・・・・1メー・・ト・・・擦違ったぁ!!
「ぅあぁぁあ、あぁ、あのっ、すみみゃせん・・・・。」
―噛んじったヨ、最悪だぁ。ぅぅぅう、恥ずかしい・・・。・・・・・・・・・・・・・んぁ、無反応?
ちらっと、顔をあげて彼を確認すると。スタスタと先へ行く彼。
「っっ!!!??? えぇ〜、ちょっと待って!お願いだから待って!!待ってください、お願いします!!!私は貴方に声を掛けたんです。他のヒトじゃぁ、ないよ!ちょっと、渡したい物があって。自分勝手なのは重々承知なんだけど、少し時間を貰っても良い?」
彼はやっと立ち止まったが、その顔は先程のものとは比べ物にならない程の驚きの表情をしていた。
つまりは、先程よりも一層恐ろしい顔だということ。何人か失神者が出てしまう程にグレードアップし、彼の半径10メートルは彼と彼女の2人しかいない状態である。
・・・それでも、2人が気になるのか、きっちり10メートル離れた処にはギャラリーが大勢いた。
『なんだぁ?殴り込みか!?』『女の子だぜ!女子高生だぜ!!』『これから一体、何が始まるんだ・・・。』『つぅか、あいつに声掛けるって・・・マジ、ハンパネェ。』とギャラリーがそれぞれ思い思い言葉を交わしつつ様子を伺っていた次の瞬間。
「、、、なに?」
「っ!!あのっ。こっ、これを受け取っては貰えないかな!?」
言葉は尋ねているものだが、先程から持っていた物をグイグイと彼に押し付けている彼女。
「っ、、いや、、、ちょっと待「受け取ってください―――――!!!」、、、あぁ、分かったよ、、。」
「やた!ありがとう!!
あんね、中身はピーナッツチョコなんだ!ホントは『開けてからのお楽しみ』の方が、ワクワク感があって良いんだろうけどさ。どうしてもインパクトを強くしたくってね。いやぁ、チョコっていったら、今週、バレンタインデーがあるでしょ?でもでも、みんながあげてる時に一緒に渡してもさ、その他大勢の中の1人になっちゃうじゃんか。それが嫌でね!だって、貴方にしっかりと私を覚えてもらいたかったんだよ。
へへっ、どう?印象に残った?インパクト強かった?記憶にしっかり残りそ?
あ。んで。『何故に今日?』というのはね、節分とバレンタインデーの中間日だから。8日と今日と、どっちにしようか迷ったけど、渡すのチョコだし、バレンタインデーに近い方の今日ということで。
ピーナッツチョコにしたのは、貴方が『鬼』だから節分の豆とピーナッツを掛けて。いくらインパクトを求めるとはいっても、さすがに豆を投げつける訳にはいかないでしょ?それと・・・・・私が貴方を初めて見たのが・・・んにゃ。一目惚れしたのが、去年の節分だったからなんだぁ。去年さ、モモキ公園であった、節分イベントに参加したでしょ?それね、私も参加してたんだ。その時の貴方の活躍ぶりに・・・もぅっっ・・・。
だから、その思い出も込めてピーナッツチョコ。ホントはさ、カカオ豆にリボン巻いてプレゼントしようってなお茶目で洒落た案もあったんだけど、みんなから『辞めたほうが良い。』って止められちゃったよ。代案のピーナッツチョコになってしまったけど、みっちりと心を込めて作ったから!味も保障するよ!!なんてったて、家の食事は私が担当しているからね。安心してね。」
次から次へと紡がれる言葉に周囲は『『『とんでもねぇ。あの女、真面目にとんでもねぇヤツだ!』』』と唖然。
そして、そのとんでもない女から、とんでもない告白を受けたあの男は・・・と思って様子を見てみると。
「はぁ。、、どうも?」
『『『普通の反応かい!あの告白に普通の反応は逆におかしいよ!!
それに、あの表情っ、告白受けての表情じゃないでしょ!!!
今から殺りに逝きます的な顔だよ!!!!なんだ、こいつらぁ!!!!!』』』と更に恐怖心が強くなったようだ。
さて、周囲に恐怖心をひたすら植えつけている2人は甘酸っぱい会話を繰り広げていた。
「、、、俺が、恐くないのか?」
「はぁ?告白したヒトにそんなこと聞く!?
やっぱり、貴方、最高だね!恐いどころか、ますます好きになってるんだよね〜!!凄いね。」
「、、、、、、、そう、か。いや、なら良い。普通は、あんな反応だから。」
と、ギャラリーを指して言った。強面の自覚はあったようだ。
「そ、、れに、去年の節分は、、、子供たちに、かなり泣かれたから。」
「周りは周り、私は私だ。いろんなイキモノがいるこの世界では見た目なんて、あまり重要視することじゃないって私は思ってんの。確かに、一般意見からしたら貴方の顔は恐いでしょうけど、私は貴方に惚れたんだよ?一目惚れだったんだよ?
それに、去年から今日までの1年間、何もしてないと思ってる?そりゃぁ、もう、ストーカー並に貴方の情報収集を頑張ってたよ。女子高生ネットワークって凄いんだよ?・・・でも、あとをつけたり、物を盗んだりはしてないから!
『ストーカーは犯罪です』ってなのはしっかり分かってるから!モラルは捨ててないつもりだよ!!
・・・・・・・・・・・・っはっっっ、しまった、これ言うの忘れてた。
好きです!私と付き合ってください!!」
「ふはっ」
―笑顔ぉぉおぉ!やばい・・・鼻血でそ・・・・。