「オレだじぇー♪」
ふざけた発音で、ふざけた調子でそんな声が聞こえた。目を向けるとそこには一匹の黒猫とジャックオーランタン。彼らも同居人。言葉が話せる猫と魂が入れられた南瓜。まさしく妖怪・お化けの典型とも言えるのでは。そんな彼らに少女は「おかえり」の言葉をかけて迎え入れた。
「見てよナーナ。街まで行ってお菓子をねだったら、こんなに沢山もらっちゃった。早速4人で食べようよ。」
口に銜えていた大きな籠をおろして報告をする黒猫。他にも、街の様子や見かけた妖怪・お化けなどを教えてくれ、と少女にお願いされたので嬉々として話を始めた。
そんな彼らを尻目に、残りの2人は若干ギスギスした雰囲気を醸し出していた。
「なんで・・・なんでナナに教えたんだよ。僕は血なんか飲みたくないよっ。」
半泣きどころか本泣き半歩手前な顔で南瓜に詰問する吸血鬼。
「ハンッ!『血を飲みたくない』。それだけ聞いてりゃ格好いいんだけどねぃ。
ただ単に痛みに弱いだけじゃーん。自分が痛いのもダメェ、他人が痛そうにしてるのもダメェ。おまけにぃ、怪我を見るとフラフラなるんだよねー、エディちゃん。」
「だからって、ナーナに教えることな--「チキンな吸血拒否理由は教えてにゃーよ?ただ『飲めない』、『飲まない』の違いを教えただけだもーんね♪」・・・・。」
ああ言えばこう言う…
口では敵わないと思ったのか、青年はブツブツと独り言を言い始めていた。
結構な量の不平不満を言わせ、もうそろそろ良いだろうと判断してジャックは先ほどとは違う真面目な調子で話し出した。
「実際問題、ここいらで血を摂らないと本当に危ないって気づいてんだろ?
もう何年血を摂ってない?ナーナの母親に出会った時からだろ?かれこれ30年だぜ、30年。死にはしないがガタが出始める頃だ。丁度良い機会だったんだよ、今回は。
それに、ゼリーとして摂取すんだから、傷を見るわけでもない。いいじゃ「でもっ・・・・」…でもなんだ?」
先程とは逆に、今度は吸血鬼が南瓜提灯の言葉を遮った。
「…でも、、今はそうだとしても、ゼリーを作る時に、、作る為に血を出したんでしょ?…傷ついたんでしょ!!」
--はぁー、やれやれ。ほんとに何でこいつは吸血鬼に生れてきちまったんだろー。しかも結構な血筋っつーから尚更。
「エドはとても優しいのですよ。」
それまで黒猫と話をしていたとばかり思っていた少女が言葉を発したのに2人は驚き振り返った。
「人のツラサが分かるからイヤなのです。人の痛みが分かるから血を吸うのがイヤなのです。エドはとても優しい吸血鬼なのです。いつも私を一番に考えてくれますもの。
でも、それじゃいけません!!!好き嫌いはいけません!!!イヤだからといって『しなくてもいい』と甘えさせ続けるのは良くないのです!
私も嫌いなピーマン、頑張って食べてます。優しいエドも、この時ばかりはチョット怖くなります。…あ、えっと、そうじゃなくって・・・嫌いな物であっても食べるのは、早く大きくなりたいからです。エドにお似合いな大人の女性に早くなりたいからです!
でもでも、エドが好き嫌いをして、血を飲まないのなら…エド、死んでしまいます。私達、人間のご飯は吸血鬼のエドには気休めにしかならないのは知ってます!!やっぱり、血を飲まないといけないのですよ!!死んでしまいますよ!!!
頑張ってピーマンを食べて大きくなっても、エドがいないのなら意味がないじゃないですか。ずっと一緒にいられないじゃないですか…。……私、イヤです。エドが死なないのなら、喜んで血をあげますから。エドの見えない所から血を出しますから!!だから、飲んで下さい、、食べて下さい!死なないでください!!」
なんとも強烈な告白か。かれこれ10歳そこらの少女が言うセリフだろうか。一同あんぐりと口を開けて驚愕の表情であった。1名はそれに加えて顔をとてつもなく真っ赤に染め上げていた。
「え、、とね?ナーナ?」
「はい、なんでしょうか?」
困惑した表情の青年に涙眼の少女。変な構図だ、なんだこれ。と一匹と一玉は思っていた。
つい数分前のシリアス劇場から一変、今度はラブコメ的なムードが流れていた。
--愛の告白っぽく聞こえたんだけど…
エドは、私のことどうですか?恋愛対象として好きですか?
--ウギュッ…えっとぉ、年齢的にここで「好き」と答えたら犯罪ってゆうか何てゆうか…
でも、もうそこまで年齢差が開いてると「年齢的」という問題はあまり関係ないかと。
ッハッ!!私がまだ11歳だからですね!!!ではではもう少し待って下さい。
すぐに大きくなります!!女の子の成長は早いのですよ!!あと5年程ください。
5年後、もしくは女性と言える頃にもう一度告白しますから!!!
「結局、全部をナーナに言わせちゃったよ。男としてどうなんだろう?」
「仕方にゃーよん♥ だって、エディちゃんはチキンじゃーん!てか、へたれでもいいかもねぃ♪」