リビングからダイニングに移動して話し合い開始。
「さて。ちょっとお父さん。説明してくださいな。」
ニッコリ笑顔で。向こうで姉ちゃんが怯えてるのが分かってても「こんな素敵な笑顔はないでしょう?」という笑顔で。対する父ちゃんは、ノホホン笑顔で説明を始めた。

「あ〜。あの子、山中 一(やまなか はじめ)君、3歳ね。俺の隣の部の奴の子どもなんだけどさ、そいつが会社の金を持ち逃げしちゃったらしくてねぇ。もー、今日会社すごかったんだから。そう、それで山中君の上司がアパートに行ったら、一君ひとりきりでね。山中君と一君の2人暮らしだから。なのにお金持って逃げ出しちゃったでしょ?親戚もいないらしいから、会社の方対処しなくちゃならなくて。で、『施設に入れるべきだ―』とか話が出たわけよ。」

うわ〜〜〜。なんじゃい、その壮絶さ。んで、ここまで聞いて大体の流れは理解できた。…父ちゃんがはじめ君を家に連れて帰ってきたのも。
“施設に入れるのはかわいそう。じゃあ、俺んちに来てもイインジャネ?”とでも思ったんだろうな。ホントに軽いなぁ。出世できなさそうな性格。
ということは、今日からはじめ君は泉家の一員か。“暫くごやっかいのお客様”じゃなく、“泉家メンバー”ね!!
……すぐにこう思えるのは、やっぱり父ちゃんの血を引いてるからかね?

「会社はそれでOKって?」
「ああ。一君については一任された。山中君が見つかった時は、すぐに連絡がくるだろうしさ。んで明日、会社に市役所なんかに行って手続きして、前島んとこに相談しに行くから。いや〜、事後処理で週末はみんな大変だわ。俺は特別任務だからまだ良いんだけどさぁ。」
ちなみに、“前島”っていうのは父ちゃんの友達で職業:弁護士。見た目を言うなら、びしっとスーツを着て仕事をしているよりも大型バイクを乗りまわしてる方が似合うちょい悪オヤジ。なら、俺も行こうかな。前島のおぃちゃんに会いたいし、はじめの事も気になるし。
ついでに買い物もしよう。はじめの日用品。…となると、家族総出の外出になるかな。母ちゃん、姉ちゃんどちらも締め切りギリギリってわけじゃないから、はりきって買い物に行きそうだ。女性の買い物におけるバイタリティはすごいよね…。

…あ〜でも、よかったよ。そこら辺にいた子どもを誘か・・・・連れて帰ってきたんじゃなくて。一安心だ。

話もひと段落ついたところで、リビングにいるはじめを見る。最初に見たときから思ってたけどさ………ガリガリなんですけど!子どもらしい、ふっくらとした感じが見られないんだけど!!それに口数も少ないし、表情もないのだけれど!!!
“これはもしかして”と父ちゃんを見ると苦笑いで。…それだけで、あの子の今までの生活がわかってしまった。