『これで終わり。おもしろかったかな。』
話し終えたカミさんは、あの不思議な色の瞳に、どことなく懐かしさと寂しさと悲しさを含ませながらお茶を飲んだ。
「あぁ、うん。おもしろかった。
てか、聞いたことない話だった。どこの国の?それともカミさんのオリジナルだったり?」
『まあ、ある意味オリジナルだよ。
それから、"リヒウェルト"って世界の神話なんだ。』
「・・・・・リヒウェルトって国あったか?聞いたことねぇな。」
ホント、夢って自由だよな。
・・・・・でも、そういえば夢って記憶の整理整頓作業じゃなかったっけ?
だから、自分の記憶や体験したことが夢に出るって。
俺、あんな話も"リヒウェルト"って名称も聞いたことも読んだこともねぇけどな・・・。
それに、カミさんみたいな美人を見たこともない。あんだけの容姿なら、絶対、記憶に残るけどな・・・。
ヤッベ!もしかして、ファンタジー小説の読みすぎで、自分で話を作っちまったとか?染まりすぎだろ。
うっへ―――――、俺なんかイタイ子じゃんか!!!
と俺が、内心かなり焦っていると。
『それで、信太には"リヒウェルト"に行って、この世界を救ってもらいたいんだ。
3人の神は、現状維持でいっぱい。そして、創造主は世界の物事に干渉できない。
・・・でもね、異世界には干渉出来る。彼もそこまで呪うのは無理だったみたいだよ。
そして考えた結果、異世界の人に創造主の力を与えて、創造主の代わりに救ってもらう方法が1番なんだ。』
「ハイッ、異世界トリップ要素まで追加されました―――!!!
更に1歩、イタイ子になりました―――――――――――!!!」
『??"イタイ子"じゃないよ。"御子"だよ。格好良く言えば"救世主"とか"勇者"とかかな。
まあ、どれにしても世界を救うってことに変わりはないから、どれでもいいけどね。
それからね。本当に申し訳ないんだけど、今から直ぐに行ってもらわなくちゃいけないんだ。いきなりでごめんね。
私も、それはあんまりだって言ったんだけど、他の子たちが聞いてくれなくて。』
異世界トリップ要素を追加され、思考の海を漂ってた俺は、後からのカミさんの発言をまともに聞いていなかった。
なんだ、このファンタジーの大売り出しは?安くても、そんなもんいらねぇよ!
"イタイタシイ"自分を再確認するだけじゃんか。・・・もう、これ以上傷付けてくれるな・・・。
・・・・・・・・・・でも・・・ここまできたら、俺のイタイ子レベルがどんだけあるのか知りたくなってきた。
好奇心がムクムク成長してんのが分かる。えぇい、どうせこれは夢だ。乗っかっちまえ!
「そういえば、さっき、何て言ってた?ごめん。考え事してて聞いてなかった。"他の子たちが云たら"って。」
『これから直ぐに、"御子"、別名"救世主"、別名"勇者"として、"リヒウェルト"に行ってねって。』
「へぇ。んじゃ、起きたら自分の部屋じゃなくって別世界なんだ。」
『うん、そう。本当にごめんね。ご家族に挨拶もさせてあげられなくて。
それ位の時間はあげてもいいのに、あの子たちときたらまったく。』
・・・そう言ってため息をついたカミさんは、お母さん的雰囲気だった。
「んーん、いいよ別に。」
『そう言って貰えると助かるよ。
"リヒウェルト"での生活に困らないように、最低限の事・・・そう、言葉や文字は分かるようにしておくから。
あと、移動も安全な場所にさせるから安心してね。』
・・・・・・ホント、王道な設定だな。それよりも、今気付いたけど・・・・・
「なぁ、今更だけどさ、カミさんって、話に出てきた創造主?」
『えっ、うん・・・そうだけど。本当に今更だね。
まあ、私も意図して三人称で言ってたけど。それにしても・・・・・』
うわぁ、マジかい。
てっきり、苗字だと思ってたし。"上(カミ)さん"。
いや、クラスに居るんだよ。"上(カミ)"ってヤツ。ほら、音は一緒だしさ。・・・うん。こりゃ、ただのいい訳だ。恥ずかし。
てか、驚いても美人だよ。目も口もガッパーって開いてるのに損なわれてねぇ。やっぱ、創造主だからか?
平凡の俺にゃ、かなり羨ましいな。
間抜けなことを考えてる俺を尻目にして。
"神様"は『ちょっと不安になってきた。』だの『でも、相性が最も優れてたんだよね。』
とか、あっちもあっちで考え事をしていた。・・・らしい。
とまぁ、それは置いといて。
異世界トリップの原因と分かったなら、1つ言いたいことがある!夢であっても、いや夢だからこそか・・・?兎に角!!
平凡顔でも、真面目な顔で。そして、大きく息をすってぇ、セ―――――ノッ!