荘厳で厳かな空気の中、一組の男女が今まさに夫婦になろうとしていた。
とんだ茶番劇
静かな教会で。多くの人に見守られている中、神父の声が響いた。
「新郎。汝は、病めるときも健やかなるときも、これを愛しこれに忠誠を約束すると誓いますか。」
「誓います。」
はっきりと朗々とした声で答えるが、緊張の為なのか表情がさえない。新婦もなにやら思案顔である。当人たちの結婚式であるはずなのに様子がおかしい。二人の様子には気付かずに神父は続けて言う。
「新婦。汝は、病めるときも健やかなるときも、これを愛しこれに忠誠を約束すると誓いますか。」
「・・・・」
新婦はなかなか答えない。瞳には焦りの感情がちらちらと見えるようになってきた。会場もざわつく。神父がもう一度、誓いますか、と問いかけた。腹を括ったのか、何かを諦めたのか分からぬ表情で新婦が口を開いた。
「ちか「その結婚、ちょっと待った――――――――!!!!」 やっと来た、あの馬鹿野郎。」
そこに突然現れ乱入したのは、結婚式にはそぐわないTシャツにダメージジーンズの今時風の格好をした青年。皆が唖然とする中、ズカズカト新郎新婦の方へ向かっていく。
「すまない、遅くなってしまった。でも、間に合ったようだね。・・・・もう、迷わない!決心したんだ!!もう、こんな不安な思いはさせない。さぁ!僕と一緒に行こう!!!」
そう言って、会場から逃げていった。
新郎の腕をつかみ逃げていった。
もちろん、会場は騒然となった。『新婦が逃げるならまだしも、新郎が?』『は!?間違ったんじゃない?』『男同士・・・?ホモ・・・?』等など様々なことばが飛び交っている。そして、新郎新婦の家族は、出口の方を見ながら真っ白になっていた。・・・あたりまえだ。
だが、いつまでも騒いではいられない。今日のもう一人の主人公である新婦のフォローをしなければ、と人々が新婦を見やると一同唖然。
ドレスしかない!
先程まで新婦が居た場所には、真っ白の花嫁衣裳が脱ぎ捨ててあるのみ。新婦の姿はどこにも見えなかった。
さらにヒートアップする会場。『ショックで消えちゃったんじゃない?』『馬鹿言え、恥ずかしくて逃げたんだろ。』『でも何でドレスを・・・?』等など。
さすがに、この状況にボケている暇はない新婦の父親は一部始終を見ていたであろう神父にるかみかかり、揺さぶりながら娘の行方を聞いた。
「新婦は、脇から現れた女性と一緒に裏口から出て行かれましたよ。」
会場はもう大混乱。『何?新婦も?』『女とだって。』『女同士・・・?レズ・・・?』等など。そして、皆が心を1つにして思ったことは、『『『『はぁ!?何これ、どーなってんの?????』』』』である。
実は親の会社の為の政略結婚だった二人。共に恋人がおり、どうしても結婚したくはないと考えた末の結果であった。両親、特に父親が会場の後始末をしている間に逃げぬく。大企業なので、後始末はかなり大変だろうと見越してのことだっだ。