宰相の説明に顔を真っ赤に染めつつも反論を言おうと口をひらこうとしたが、
「それ、いいかげんにせんかぃ、リリー。話を聞く限り、人間界へは瞬間移動じゃなく『扉』を通っていくんじゃろぅ?」
「んで、『扉』を抜ける前に魔力を封じる。例え力を使えたとしても魔導師レベル程度じゃね?そんなんでお前、やっていけんのか?無理だろ。」
今まで静観していたウィー、レパドも納得させるように加わってきた。
続けて更に黒豹元帥は言った。
「何よりリリーさん。最も陛下の人間界行きを反対してんのは、『自分を差し置いて、ロメリオが陛下と共に行動をする』のが気に喰わねーんだろ?」
みーんな分かっんぜ、とニヤニヤ笑いながら。
あ〜あぁ言っちゃった、あえて言わないでおこうと思ってたことを言っちゃった。という空気の中、本の虫のみがリリーを慰めるように発光していた。
そして最後に彼女の愛おしい魔王陛下も納得させるように口を開いた。
「私は魔力を封じても人型を保ち続けられる。そういう性質だからな。ロメリオもそうだ。宰相は元の姿、狼として行動するから魔力云々は問題なし。レパドでもまぁ良いのだろうが黒豹はあまりにも、な。」
それを聞いた黒豹は、ただしなやかに尻尾を振った。
「反乱軍幹部以外には当分、魔導師として通す。だから無闇矢鱈と力は使わんから安心しろ。
それに、私が人間ごときに殺られるとでも?
あぁ。身の回りの世話が心配なのか。だが、人間界に行かない、ということにはならんよ。私は『お前』と『扉』とを選ぶんなら、迷うことなく『扉』を選ぶ。
それに、身の回りの世話は全く心配はない。魔王就任前・・・そうだな、100年ほどか、その間ずっと旅をしていたのは知ってるだろう。私は本来、世話役はいらないんだ。」
だから今回は諦めろ、そう締めくくり深みのある碧眼を瞼に隠した。
そしてリリーは怒りを納め、変わりに悲壮さを、涙を滲ませていた。
第一章 - 10