第一章 - 9


  

リリーが爆発する。そう思ったが、さすが魔王。リリーの魔力を封じ込め大事には至らなかった。というか、無理やり魔力で魔力を押さえつけたと言った方が適切である。
魔力を封じられ、阿修羅な表情の可憐な妖精は、怒りだけをあらわに吼えていた。

なぜ、陛下がわざわざ行かなければならないのか。
宰相一人が行けばいいだろう。
陛下の手を煩わせなくてもいいだろう。
毎日の陛下のお世話は誰がするのか。
私が同行してもいいだろう。

などなど、挙げられるだけの不満鬱憤をたぎらせている。言うことはもっともな・・・結構自分勝手な意見だ。
それを聞いていた皆は嗜めるでもなく、ただ「しかたないなぁ」と苦笑するような反応だった。
なんせリリーは『陛下のお世話をすることは、何よりの生き甲斐です!!!!!』だから。

魔力は封じられてはいるが、それでも恐ろしいものは恐ろしい。魔力が戻った後に何か復讐されるのでは、と若干ビクビクしつつ、だが表情には全く出さずに宰相は静かな声で言った。
「いいですか、以下の点で人間界行きを私達2人にした理由です。

@人間共に魔王陛下の素晴らしさを知らしめるため
 A ネペンティアの人間共に恩を着せるため
 B 人間の姿を取れるのが、陛下と私だけ
 C 魔力を使わないでも平気でいられる
 D Cに関係して、感情に左右されずにコントロールできる

特に、BCDはリリー、お前には無理でしょう。魔力を使わないようにするのは、もちろん魔導師に感づかせ無いため。
私達が魔族であると知らせるのは今のところ反乱軍幹部の5名だけです。まぁ、様子見で徐々に知らしめてはいきますがね。
ですが、最初から全ての人間に魔族だと知られては嫌なんですよ。陛下の素晴らしさが半減してしまうじゃないですか。

あぁ、話がそれてしまいました。
そう。ですから人間の形には近いとしても、目や耳はやはり違う。『幻術でそう見せれば』というのも無理なのは分かりますね、魔力を使ってはいけないのですから。

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