第一章 - 2


「−−−というわけで、とても困っているんです。」
話し終えた門番は、緊張のせいでカラカラに乾いた喉を潤すためにだされた紅茶を一気に飲み干した。すかさず注がれる紅茶。・・・話を聞いていた男によって。門番は更に緊張してしまった。
「成程。本当に、全く困ったものですね。」
話を聞いた男=宰相は笑みを湛え、しかし目は決して笑っていない表情で言った。


門番と宰相。役職の位も魔族としてのレベルもかけ離れている2人。
門番も「扉」関連の問題なので、『無下にされずに話を聞いてくれるだろう』と考えてはいたが、まさか宰相が応対してくださるとは思ってもみなかった。なので、宰相の待つ部屋に通されて、開口一番に門番が言った言葉は、
「宰相自ら、対応して頂きありがとうございます。私は教養も礼儀作法もなっていない不躾者です。ですので、失礼なことや言葉遣いをすると思います。申し訳ございません。」
というものだった。この時点で門番は『もう、すでに失礼なことをしていたらどうしよう。』という不安と緊張で汗がダラダラと出ている状態だった。

それに対して宰相は、
「そのように緊張なさらずとも。それに「宰相」といいますが、結局は国内の雑用係のようなもの。自分では偉い位にいるとは思っていません。逆にあなたは、世界の大切な「扉」を守っている門番ではないですか。そちらの方がとても素晴らしい仕事だと思います。どうぞ、緊張なさらずくつろいでください。」
と返した。門番はその内容に、『いやいや、「雑用」って。この魔界を統治する魔王陛下の右腕たるお方が「雑用係」って。・・・偉い人の考えることはわからない。』と思った。そう思っている内にお茶やケーキが出され、宰相の聞く準備も整っていた。因みに、お茶、ケーキの準備をしたのは宰相。門番は思考に耽っていたので気付かなかった。・・・気付かないで良かったのかもしれない。
そして門番は先程の話をしたのだった。


「本当に、人間は勝手極まりない生き物ですね。魔界なのだから魔族がいるのは当たり前のことでしょう。関所を通るのを許されたからといって、我が物顔で生活することまで許されていると思っているのでしょうか。普通ならありえませんよ、このようなこと。人間界でも同じでしょうに。それとも「魔界」だからでしょうかねぇ。見くびられたものです、フフッ。
それに、あの関所は土族を含めての関所なのですよ。彼ら自身があの土地であり、あの土地を守っているからこそ私たちは安心して「扉」を任せていられるのですが・・・。
あの天然ポケポケな彼らが相談するまで追い詰められているのはさすがに放置できませんね。
分かりました。陛下には今日中に話しておきましょう。大切な「扉」のことです。問題の芽は早く摘んでおくにこしたことはありません。話してくださりありがとうございました。書類を作りたいのでもうしばらくご協力おねがいしますね。」

所どころ宰相の黒さにビクついていた門番だったが、自分の判断は間違っていなかったことが分かり一安心した。
部下に連れられ門番が退室した部屋で、宰相はポツリともらした。

「本当に、人間は自分達のことしか考えない動物ですね---。」

 

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