第一章 - 3


門番の話を聞いた3時間後、宰相は魔王陛下の執務室へ訪れた。
「失礼します陛下。追加の書類です。それから、「扉」の件について問題が発生しました。」
立派な机 −だが、書類や本で散らかっている− の前に立ち、生類を机に置きながら宰相は言った。立派な机に見合う、一目で座り心地が良いと分かる立派な椅子。そこには、8歳ほどの少女が座っていた。

彼女が第5代魔王陛下。
ツインテールにされている水色の長い髪。長い年月を生きていると伺える深みのある碧眼。首から胸部にかけて施された刺青。
幼い姿ではあるが、800年生きている現魔王。魔界全土を統べる魔族の王。現時点ですべての魔族が畏怖し尊敬する存在である。

宰相が入室してもペンを止めずに仕事をしていた魔王だが、「扉」という単語が聞こえたとたん直ぐにペンを置き顔を上げた。そして、目線で話を促す。
それを受けた宰相は、門番の話を復唱し報告をした。いや、唱というより真似をしたと言った方が適切である。口調から声色、表情までそっくりそのまま。『事務的な口調だと陛下は退屈してしまう!』と思っての行動のようだ。妙な所に気を使う男である。・・・そして、門番の真似はなかなか似ていた。

宰相による寸劇とも言える話を聞き終わった魔王は、ここでやっと口を開いた。
「迫真の演技をありがとう。
 さてさて。土族が相談する程ストレスが溜まるとは本当にそうとう酷い状況だね。放ってもおけない・・・。
 それで?そんなに多くの者達がこちらへ来ている原因は?」
部下の気遣いに対しお礼を言った後に話に入った魔王。
宰相のさわやかに見える笑みが脂下がったものに変化した。と言っても、本当に僅かの変化で長年の付き合いのある者でなければ分からない位の微々たるもの。因みに、この時の宰相の内心は、「我が魔王陛下にお礼を言っていただけた!ゥヤッホ〜〜〜イ!!」と狂喜乱舞、大フィーバーだったらしい。

「どうやら人間界の大国、ネペンティアが原因です。」
ぬかりのない宰相。魔王のもとへ来るまでの3時間にある程度の情報を揃えていたのだ。

天界・魔界とは違いいくつかの国に分かれている人間界。元々、人間界も1人の王が統べていたのだが、やれ「独立だー」「反乱だー」等など人間らしい理由でいつの間にやら分国していったのだった。
ネペンティアは、それらの中心国であり、人間界での最大国。そして、人間界が1つであった時の城が置かれていた場所なのである。  


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ne(無い)+ penthos(憂い)= ネペントス(憂いのない)をもじって。
Nepenthesで靫蔓(うつぼかずら)。そう、食虫植物です。他国を飲み込もうとする国にはちょうど良い名前かな、と思いまして。
・・・・だれか、ネーミングセンスをください(泣)