魔界でも日は昇る。今日も1日、草木に魔物に暖かい陽だまりを与えてくれてありがとう、明日もよろしくね、という時刻。本日の執務を終えた魔王陛下が宰相を従えて豪奢なドアから入ってきた。
部屋には既に全メンバーが揃っていた。各自、魔王が来るまで好きなように待っていたようだ。
真っ先に魔王の元へやってきたのは、小さな虫たち。
重要書類から趣味本に至るまで、ありたらゆる資料の整理を行っている文官である。資料整理と言って馬鹿にしてはいけない。
何千何万年前からの膨大な資料を保持している魔界にとって、資料整理はとても重要な仕事なのである。
そんな魔界にとって、彼ら「本の虫」はなくてはならない存在。どこに、どんな資料が、どれ程あるのかを全て把握しているのは魔王陛下の他には彼らだけといってもいい位。
重要な仕事に就いている彼らは、その重要性を知っているのかいないのか・・・。フワフワ・ピカピカしながら魔王の元へ。貴女に会えて嬉しいの、お久しぶりです、と。魔王も「私もだ。」と微笑みながら移動した。
次に目についたのは、夕日をバックに前面ガラス張りの前でウトウトしている黒豹:レパド。
魔王が入室したことに気付いてはいるが、眠気が完全に覚めず、首がカクンカクン大きく揺れている。お昼から今までずっと、ここで昼寝をしていたらしい。「ここはとても良い昼寝スポットなんだゼ☆」・・・仕事をしろ。
こんな締りのない魔物ではあるが、役職は元帥。軍部のトップである。ネコ科特有の曲線美、凛とした立ち姿。元帥となれるほどだから、魔力も凄まじい。
魔界の中で逆らってはいけない魔物の一人である。・・・そう。たとえ、寝汚くても。
「ほら、しっかりせんか。」
そんな寝汚いレパドをたしなめているのは、牛を簡単に絞め殺せる程の巨大な白蛇のウィー。
先程の本の虫たちが資料整理であるなら、ウィーはその資料に書かれている内容整理が仕事。元々、読書が好きで、記憶力も良すぎる彼。その趣味・特技を知った前魔王がスカウトし文官に採用したのだ。
戦闘能力は全くないが、知識においては魔王にも引けをとらない程。周りからは『歩く超巨大図書館』と言われてもいる。
人間に近いが、やはりどこか違うのは花の妖精のリリー。尖った耳、白目の無い瞳。長く流れるグラデーション色の髪。そんな彼女は、いそいそと陛下に紅茶を出している。
初めは魔王の身の回りの世話をする従者だった。その花の妖精らしい、可憐で清楚な容姿に見合った慎ましい彼女であったが、「陛下大好き!」が行き過ぎしまったのか、「あんな軟弱者共に警備を任せておけない!!」と何を思ったのか・・・。魔王陛下親衛隊長の座をいつの間にか奪い取っていた。現在は、魔王陛下付き侍従及び魔王陛下親衛隊長である。
ちなみに彼女の口癖は「魔王陛下のお世話をすることは、何よりの生きがいです!!!!!」だそうだ。
ついでなので、魔王陛下と宰相についても紹介しておこう。
では宰相から。文字通り、魔王陛下の右腕的存在。
現魔王によって宰相に任命された彼は普段は親しみやすい、爽やか好青年風な人間の姿をしている。これは彼の本当の姿にも関係してくるが、要は「この姿の方が仕事がしやすいから」だそうだ。好青年らしい、誰もが好感を持てる笑顔を常に浮かべているが、内では何を考えているかは・・・。たまに彼と話をしていた者が泣き出して帰っていくことがあるが、彼の性格が悪いのか単にその者達が打たれ弱いのか。
そして本来の姿は、銀狼。宰相に納まっている彼だが武人としても強く、時々元の姿で訓練に参加しているそうだ。その時のレパドとの模擬試合は最高潮に兵士等の興奮が高まる一戦である。
最後は第5代魔王陛下。先程も述べた様に、水髪碧眼。人間でいうなら8歳程度の幼い容姿で実年齢800歳。
魔王就任は50歳と他の魔王に比べるとかなり若い。実は、この就任には一騒動あり、前代未聞とまで言われた。
そして、彼女の父親は第4代魔王陛下。木の根元にいた彼女を見つけ育たので、実際は養父になる。実は、首から胸にかけての刺青は彼から受け継いだもの。もっと詳しく言うなら、代々の魔王陛下が次の魔王陛下へと受け継がせていくものである。代を経るごとに、刺青の文様が彼らの性質を表す形で増えていくようになっている。
彼女も、主に仕事がしやすいからという理由で人間の姿をとってるが、本来の姿を知っているのは彼女の養父と宰相のみ。これは別に秘密主義というわけではなく、皆に聞かれないし、一々変化するのは面倒臭いから人間の姿のままなだけ。聞けば答えてくれるだろうが、いかんせん「恐れ多くも魔王陛下にその様なことは聞きづらい」と魔物には思われているようで、就任から今まで一度も本来の姿について聞かれたことは無い。知っている2人が教えるかというと、そうでもなく、前魔王である養父は旅に出ており城には碌に寄り付かない。そして宰相は、自分達だけの秘密だとニヤニヤと笑うだけで教えてはくれないのである。
さて、そんな6種の魔物が集まった一室。黄昏時のこの時間に「勇者会議」は始まった。
第一章 - 5